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ヨコハマ買い出し紀行 (芦奈野 ひとし)


 舞台は近未来の三浦半島。西の岬に喫茶店を営むアルファを中心とした、夕凪の時代と呼ばれる(作中の言葉では「てろてろの」)日常風景が描かれた漫画です。

 この作品の登場人物達は、みんなのんびりとした性格をしています。主人公が起きて寝たら、一話が終わることもあります。そのくらいのんきで静かです。

 しかし舞台の裏に流れる背景はハードです。地球温暖化により海抜は大幅に上昇し、人口は世界規模で激減。わずかに残った人々が後退した文明の中で生きていきます。

 そうした場面は水没した横浜や横須賀の街、海岸線が浸食してきた道路や人影の消えた廃墟などに描かれていきますが、このように失ってしまったものの上に成り立つ「ほのぼの」が、このガラスのような世界観を印象づけてくれます。

 そしてこの漫画のもう一つのテーマは「旅」です。主人公アルファは相棒のカメラを片手に、様々な場所へと小さな一人旅に出かけます。

 何気ない風景で足を止め、夜まで眺めていることもあれば、1年間の出稼ぎの旅に出るエピソードもあります。もう一人の主人公とも呼べるアヤセはミナミトビカマスと呼ばれる空飛ぶ魚を連れて、漁と農村の手伝いなどで生計を立てながら放浪の旅を続けます。

 ムサシノの国から訪ねてくるココネや、若い頃にはオートバイで各地を回った医者の子海石先生。さらには着陸できない飛行機に乗るもう一人のアルファ(アルファー室長)。

 それぞれの目を通しながら、一人旅の楽しさ、ワクワク、自分だけのささやかな発見、孤独。そんなものが小さな街灯やガードレールを通して、言葉を通さず情景で描かれていくのです。

 きっと一人旅が好きな方なら、作者からのメッセージがコトリ、コトリと胸の隙間に伝わっていくのではないでしょうか。旅で育った感性が掘り起こされる。私はこの漫画を読み返すたびにそう感じます。

 主人公のアルファはロボットです。しかしロボットとして強調される特徴はただ一つ。それは歳を取らないこと。

 周りだけに流れる時間が、少しずつ少しずつ切なさを深めていく。近所にいた少年は小さな成長を繰り返し、その距離感を変えていく。『ヨコハマ買い出し紀行』はそうした構成で物語を紡いでいくのです。

 お祭りのようだった世の中が、ゆっくりとおちついてきたあのころ。とても変わった作品ですが私が大好きな漫画の一つです。読めばもっと旅が好きになる。もし一人旅の儚さを誰かと共有したくなったら、ぜひこの本を開いてみてください。

(レビュー:ほーりー)



ヨコハマ買い出し紀行

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