泊まる前に知っておきたい、宿坊を3倍楽しむコツ
最後にちょっとまめ知識。宿坊の歴史と成り立ち、そして現代。
それではなぜ、今宿坊が注目され始めているのか? その鍵は豊かさの定義が量から質へと変化してきたことと関係があります。
昭和の高度成長期。バブル崩壊から経済の低迷を経て、人々の意識は確実な進化を遂げてきました。
大量生産・大量消費から、省エネルギー・循環型社会への路線変更。欧米追随の文化嗜好から日本独自文化の見直し。画一的な大衆主義から個性を発揮した自己の確立。どれもが宿坊とトレンドを一致させています。
また情報の伝達手段がテレビや新聞といった均一的なメディアから、インターネットを中心とした局所的、双方向的なメディアへと比重が傾くなど、個人が自分にとってより深いテーマを探せるようになったことも要因として挙げられます。
今までは例えば坐禅をしたいと思っても、場所を探す手段がありませんでした。坐禅をしたいと考えても、仲間と出会う機会がなかったのです。そもそも一般に受け入れられる情報しか流れない社会では、坐禅をしようと思いつくこともなかったでしょう。坐禅会を開くお寺も、人を呼び込む方法はありませんでした。
しかしそれは「坐禅」に魅力がなかったわけではなく、同じように宿坊で得られる体験自体を潜在的に求める人がいなかったわけでもありません。社会の気運が高まり、情報を伝える経路が整い、宿坊と旅行者が結びついた。それが今、宿坊が注目を集め始めた理由です。
私は六年前から宿坊の泊まり歩きを始めましたが、開始当初は情報などほとんど世間に出回ってはいませんでした。ガイドブックの片隅に載っていた小さな案内でその存在を知り、電話をしてみて恐る恐る泊まっていたものです。
それは好奇心と不安がないまぜの旅でした。お寺や神社に、何の縁も知識もない私が泊まれるのだろうか? 少し大げさに言えば、"魔境"に足を踏み入れる気分でした。
しかし宿泊をしてみて、それは人生を変えるほどの衝撃となったのです!
予想外の快適さと、居心地の良い空間。いつの間にか私は宿坊旅行の虜になっていました。
宿坊に泊まられた方や坐禅などの体験をされた方から、私は生の声を聞かせて頂く機会があります。その多くが私のように強い不安を感じていたが、体験してみると予想を覆す心地好さだったというものでした。
お寺や神社、特に一部の新興宗教の暴走などが報じられて以降、『宗教』というものに不信を感じる方は少なくないでしょう。私自身、宿坊に泊まり歩く活動を続けながら、実は宗教に対する抵抗を心の中に持っています。
しかしこれまでは宗教と適当な距離を置きながら接点を持つ方法がありませんでした。宗教の良さや悪さを知る場所がないために、今まで生活に全く接点のなかった人が、新興宗教に傾倒してしまう側面もあったのではないかと思います。
それは少し極論としても、一般の宗教とニュースで報じられる怪しげな宗教もどきをまぜこぜにして、全てを突っぱねてしまうのはもったいないことです。仏教や神道は長い時間をかけて積み上げられた知恵の集大成でもあり、その中から自分の気に入ったものを拾い上げて活用することは悪いものではありません。
宿坊は誰もが気軽に泊まることができ、お寺や神社の生活を覗くことができる場所です。断絶していた宗教と普通の人々との間の垣根を、少しだけ低くしてくれる役割があります。
こんなことを深く考える必要はありません。しかし少しでも興味を惹かれる何かがあれば、ぜひ一度あなたも宿坊に宿泊してみて頂けたら、一人の宿坊好きとしては嬉しく思います。
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