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(十一)文学

 宿坊巡りでは文学も一つのテーマと成り得ます。

 例えば山形県の出羽三山は、松尾芭蕉が奥の細道に綴った俳句の舞台として有名です。出羽三山は羽黒山、月山、湯殿山からなる山々の総称ですが、その山の一つ一つで芭蕉は俳句を残しています。



 羽黒山に参拝し、月山、湯殿山と芭蕉の足跡を辿っていけば、そこで詠まれた歌の情景が、直に心に響くでしょう。山道を踏みしめ、美しい景色を眺めれば、あなたにも芭蕉に負けない名句が浮かぶかもしれません。

 また宿坊で出会える文学で一番印象的なのは、明治から昭和にかけての文豪、島崎藤村の代表作『夜明け前』です。その出だしの一文は、こんな言葉で始まります。

「木曾路はすべて山の中である」

 舞台となった馬籠宿は江戸五街道の一つ中山道の宿場町で、冒頭の言葉そのままに岐阜の山間にある町です。江戸時代には裏町を作ることが禁止されていたため、町は六〇〇メートル近く続く一本の道だけで構成されています。

 街を端から眺めると、山の斜面に石畳と木造家屋が美しい景観を織りなし、小説そのままに宿場の風情が楽しめます。

 『夜明け前』でも、往来を多くの旅人が行き来していきます。

 中には大名行列や新選組が通る風景も描写されますが、宿場町の形を今に伝える馬籠を歩くと、その賑わいが目に浮かんでくるようです。

 馬籠の宿坊永昌寺は、この『夜明け前』に万福寺として登場しているお寺です。島崎家の菩提寺でもあり、藤村の墓もここにあります。

 近くには藤村記念館や幾つかの資料館など、小説の世界や街道筋の生活の様子なども紹介されているため、世界観に興味を持った方は足を運んでみましょう。

 例えば『夜明け前』には、檜などの特別な木を許可なく切り倒すと首が飛ぶという会話がなされている場面があるのですが、それが"木一本首一つ"と言われて、本当のことであったことなども知ることができます。




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