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(四)精進料理 -2

 さらに精進料理の奥深いところは、通常では考えもつかない味の発想にあります。

 精進料理には肉や魚、それに五葷(ごくん)と呼ばれる臭いのきつい野菜(ニラ、ニンニクなど)を使わないという制約があるのですが、これが必然的に普通の料理とは違った工夫を促す土壌となっています。



 例えば蕎麦どころの長野県。善光寺で頂いた蕎麦には、薬味にくるみが使われていました。

 薬味と言えば、普通は条件反射でネギでしょう。しかし臭いの強いネギは精進料理では禁止されており、ここではくるみが考え出されました。

 こりこりとしたくるみと蕎麦は、不思議とマッチしています。さらにだいこん汁に信州みそをとき入れたつゆは、蕎麦の味に新しい出会いが生まれていました。

 ダシもかつおは使わず、昆布や椎茸をことことと時間をかけて煮る。そんな手間暇を惜しまない姿勢が、精進料理の味を作っていると言っても過言ではありません。

 他にも精進料理には、肉や魚に見た目や味を似せた『もどき料理』というものがあります。

 いくら修行中とはいえ、お坊さんも人間であれば、肉や魚が食べたくなることがある。そんなときにすり下ろした豆腐や大和芋を揚げてのりを乗せ、蒲焼き風にした擬製ウナギが出されると、雲水達には願ってもないごちそうとなったのです。

 麩をしぐれ煮にしてお肉のようなもちもちした食感にしたり、カツのように揚げてみたり、もどき料理には様々なバリエーションが存在します。

 遊び心というと似つかわしくないかもしれませんが、こうしたお寺ならではの工夫も、精進料理には欠かせないものなのです。

 しかし冒頭の五観の偈にあるように、精進料理は何より命の大切さを問いかけている料理です。

 どんなに味が良くてもそこに心がなければ、精進料理とは言えません。それは食材を使い切るという精神に、一番良く現れています。

 一流料亭では最高の味を追求するため、食材の良いところだけを使う場合があるかもしれません。

 しかし精進料理にそれはご法度です。むいた皮、ダシを取ったがらと言えども、ゴミにはしません。

 野菜の皮はきんぴらに、ダシを取った昆布は佃煮に、余った材料は飛竜頭やけんちん汁として食膳に乗せる。

 それも余り物が驚くような変貌を遂げ、これまた新しい発見となる味なのですから、どれほどに神経を配って命に感謝し、工夫を重ねた料理なのかは見当もつきません。

 私の知り合いに、キノコが大の苦手という人がいました。

 普段の生活では全く食べることはないが、そんな人でもお寺で出されれば箸を付けています。

 たとえ苦手なものがあっても、残すことにはためらいを持つ。半ば強制的かもしれませんが、そこには食に対する気づき、作った方への配慮、頂く側の感謝の心があります。

 精進料理は美味しさと健康面ばかりが注目されています。しかしたまには苦手なものが入っていた方が、食への意識は逆に高まるものかもしれません。

 そして味の中に隠れた背景に気がついたとき、精進料理は本当の意味で、あなたの心を揺さぶる料理となるです。




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