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(一)坐禅 -3

 坐禅が始まると、今度は『数息観』と言って、ひたすら自分の呼吸を数えるように指導されます。

 一つ息を吐く度に「ひとーつ」。



 ゆっくりと肺から空気を絞り出すように息を吐き出し、全て吐き終わったら自然に任せて息を吸い込む。「ふたー……つ」「みーっ……つ」と、それを繰り返す。

 しかしこうして数えていても、いつも途中で数が分からなくなります。

 さらにはだんだんと数えるのに疲れてきて、身体のあちこちが気になりだし、関係のない雑念が次から次へと浮かんできたりします。

 私の経験では、このようなときはかたくなに雑念を消そうとするより、浮かんだら浮かんだままに受け入れてしまった方が、心が楽です。ただしその考えに集中し始めるのではなく、何となく浮かんでもあまり深くは考えずにおきます。

 どうせ初心者なのだから、上手く坐ることは諦めましょう。苦しむためではなく楽しむために坐っているわけですから、失敗したなどと落ち込む必要もありません(どうせ誰も上手くできてはいないのですから)。

 それに何事もありのままに受け入れる禅の精神にも、このほうがかなっているのではないかと、私は勝手に考えています。これが私の思う初心者用の坐禅のコツです。

 坐禅にはまた、前にも少し触れましたが、警策(曹洞宗は「キョウサク」臨済宗は「ケイサク」)というものがあります。

 指導僧が木の棒を持ってパシンと叩くあれです。坐禅の醍醐味です。これは集中力が途切れたり、眠気が襲ってきた者に注意を促す意味があります。けっして罰するために叩いているわけではありません。

 時には激しい音がすることもありますが、肩の骨が当たらない場所や肩胛骨の上などにスナップを利かせて当てているので、あまり痛みを感じることはありません。むしろじんわりと温かみを感じることさえあるほどです。

 叩くときも不意にぶたれるわけではなく、合図をしてからお互いに礼をして叩きます。大抵は合掌をして自ら叩いて頂くようにお願いすることが多いのですが、その作法なども坐る前に教えていただけますので、ここは安心して叩かれてみましょう。

 ただし下手な人が叩くと、たまに痛いことがあります。痛かった時は「この人は叩き方が上手くないな」と心の中で納得しておいて下さい。

 その他、坐禅の注意点としては、ゆったりとした足の曲げやすいズボンを履くこと、裸足になるので特に女性はストッキングを履かないことなどがあります。服装はあまり派手でなければ、普段の服で構いません。

 私は坐禅をしてみて、一番感じたことは時間が大切なものであるということです。あなたは30分空いた時間があれば、普段は何をしているでしょうか?

 何となくテレビをつけていても、同じ30分は過ぎます。それが毎日の習慣であれば、一年で182時間にもなります。

 坐ったままで身動きをしてはいけない。できれば考えることさえ意識して止めるぜいたくな時間は、日常生活ではほとんどないでしょう。しかしそうした中に身を置いたとき、私には時間が流れているという感覚が、肌を通して伝わってきたのです。

 時間という字を注意して見ると、時の間と書かれています。時と時に間がなければ、時間というものは見えてこない。坐禅はまさにこの「間」を作る作業なのではと、勝手に深く考えています。

 あなたも5分間だけ目を閉じて、深く呼吸を繰り返してみて下さい。思考を停めて肺から空気を絞り出すように吐き、腹式呼吸で息を吸ってみて下さい。

 そこから焦れるような何かが伝わってきませんか? その感触を確かめたければ、坐禅はあなたにとって最適な手段です。




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